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横浜地方裁判所 平成元年(ワ)2922号 判決

原告

内田清子

被告

菅原武徳

ほか一名

主文

被告菅原武徳は、原告に対し、一九〇〇万八六〇〇円及びこれに対する平成元年一月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被告加藤由香は、原告に対し、三一八八万六六〇〇円及びこれに対する平成元年一月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、被告菅原武徳と原告との間に生じた費用はこれを三分し、その一を被告菅原武徳の、その余を原告の各負担とし、被告加藤由香と原告との間に生じた費用はこれを五分し、その三を被告加藤由香の、その余を原告の各負担とする。

この判決は、第一項及び第二項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自五四〇一万五二〇八円及びこれに対する平成元年一月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六三年一〇月一六日午後二時五分ころ

(二) 場所 神奈川県横浜市中区根岸町三―一四一先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 関係車両一 普通乗用自動車(以下「加害車Ⅰ」という。)

(四) 右運転者 被告加藤由香(以下「被告加藤」という。)

(五) 関係車両二 自動二輪車(以下「加害車Ⅱ」という。)

(六) 右運転者 被告菅原武徳(以下「被告菅原」という。)

(七) 被害者 内田伸吾(以下「亡伸吾」という。)

(八) 事故の態様 被告菅原が加害車Ⅱの後部座席に亡伸吾を乗車させ、同車を運転して直進中、右折してきた被告加藤運転の加害車Ⅰと衝突し、亡伸吾は、脳挫傷の傷害を負い、同月二七日死亡した(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

(一) 被告加藤は、加害車Ⅰを保有し、被告菅原は、加害車Ⅱを保有し、それぞれ自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、原告の後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告らは、本件事故発生につき、それぞれ前方不注視等の過失があるから、民法七〇九条により、原告の後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

亡伸吾及び原告は、次のとおり損害を被つた。

(一) 逸失利益 五五五五万八六〇八円

亡伸吾の逸失利益は、原告の計算によれば、次の計算式及び計算結果のとおりである。

(計算式)

四五五万一〇〇〇円(昭和六三年男子労働者賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の賃金)×(一-〇・五)(生活費控除)×二四・四一六(新ホフマン係数)=五五五五万八六〇八円

(二) 相続

亡伸吾は、右損害賠償請求権を有するところ、原告は、亡伸吾の母親であり、亡伸吾の実父と養父との三者間の協議により、亡伸吾の損害は、すべて原告が承継することとなつた。

(三) 原告の慰藉料 二〇〇〇万円

亡伸吾の死亡によつて、原告が受けた精神的苦痛は大きく、それを慰藉するためには右金額が相当である。

(四) 葬儀費用 一〇〇万円

(五) 墓碑建立費 三〇〇万円

(六) 損害の填補

原告は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から二九五四万三四〇〇円の支払いを受けた。

(七) 弁護士費用 四〇〇万円

原告は、被告らが任意に右損害の支払いをしないために、その賠償請求をするため、原告代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したが、被告らは、そのうち右金額を負担すべきである。

合計 五四〇一万五二〇八円

よつて、原告は、被告らに対し、各自右損害金五四〇一万五二〇八円及びこれに対する本件事故の日の後である平成元年一月一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

(被告ら)

1 請求原因1(事故の発生)は認める。

2 同2(責任原因)の事実中、(一)は認め、(二)は争う。

3 同3(損害)の事実中、損害の填補は認め、その余は知らない。

三  抗弁

(被告加藤)

1 加害車Ⅱは、本件交差点に進入する際は、反対方向から来る右折者に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないのに、加害車Ⅰの前方を通過できると過信して、指定最高速度を大幅に上回る速度で進行したため、本件事故発生の主因となつたものである。

被告加藤と被告菅原とは当然のことながら過失相殺の適用になる事案であるが、亡伸吾も指定最高速度をはるかに上回る速度で走行する加害車Ⅱに同乗し、被告菅原に対し、それを制止することもしなかつた本件においては、被告加藤との間において、いわゆる被害者側の過失とし、被告加藤の損害賠償額を決定するにおいて斟酌されなければならない。

2 亡伸吾は、本件事故発生当時ヘルメツトを着用していたが、顎紐を装着していなかつたため、ヘルメツトが頭からはずれ、頭部を路面に強打して死亡するに至つたのである。亡伸吾が仮に顎紐を装着していたならば、あるいは重大な結果にならなかつたと推定できる。右について、過失相殺すべきである。

3 被告加藤は、前記損害の填補のほか、治療費名下に五八万五四一八円を支払つている。

(被告菅原)

好意同乗による減額

被告菅原と亡伸吾は、本件事故当時神奈川工業高等学校の同級生であつた。本件事故当日、被告菅原は、亡伸吾と石川町方面に遊びに行くため、加害車Ⅱを運転し、上飯田の自宅から磯子の亡伸吾宅へ向かつた。被告菅原は、当初加害車Ⅱを、亡伸吾は、原動機付自転車を各々運転していく予定であつたが、被告菅原が石川町方面への道順を知らなかつたこと、亡伸吾から後部座席に乗せてほしい旨の申入れがあつたことから、被告菅原が加害車Ⅱの後部座席に亡伸吾を乗せ、亡伸吾が石川町への道順等を指示することとして亡伸吾宅を出発した。なお、亡伸吾は、当時原付免許を有してした。

右に述べたとおり亡伸吾は、加害車Ⅱの後部座席において、加害車Ⅱの運行を指示し得る立場にあり、実際に道順等の指示を行つていたのであるから、亡伸吾は、単なる同乗者ではなく、被告菅原とともに加害車Ⅱの運行供用者若しくは、被告菅原の運転補助者であつたと評価すべきである。

したがつて、公平の見地から過失相殺の規定を類推適用して損害賠償額全体につき、三〇パーセントの減額をするのが相当である。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

(書証の成立の判断は、特に摘示しない。)

一  請求原因1(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  同2(責任原因)の事実中、運行供用者責任については当事者間に争いがないから、被告らは、いずれも自賠法三条の運行供用者責任により、それぞれ原告の後記損害を賠償すべき責任がある。

三  同3(損害)の事実について判断する。

亡伸吾及び原告は、次のとおり損害を被つた。

1  逸失利益 四一三四万円

甲二、三号証及び原告本人尋問の結果によれば、亡伸吾は、昭和四五年四月一三日生まれの死亡当時満一八歳の男子で高校三年在学中であり、本件事故にあわなければ、満一八歳から稼働することができたものと認められる。昭和六三年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計、全年齢平均の男子労働者の平均賃金である四五五万一〇〇〇円を基礎とし、就労可能期間は、満一八歳から六七歳までの四九年間、生活費控除率を五〇パーセントとし、年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、亡伸吾の逸失利益は、次のとおりの計算式により右金額となる。

(計算式)

四五五万一〇〇〇円×(一-〇・五)×一八・一六八七=四一三四万円(一万円未満切捨て)

2  相続

亡伸吾は、右損害賠償請求権を有するところ、甲一号証から六号証まで及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、亡伸吾の母親であり、相続人であり、また、亡伸吾の実父及び養父から亡伸吾の損害のすべてを承継しているものであることが認められ、右損害をすべて承継したものである。

3  慰藉料 一六〇〇万円

本件訴訟に顕われた諸般の事情、特に事故後の原告の境遇等に鑑みると、亡伸吾の死亡によつて原告が受けた精神的苦痛を慰藉するためには総額として右金額が相当である。

4  葬儀費用及び墓碑建立費 一二〇万円

甲七号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告が亡伸吾の葬儀費用及び墓碑建立費として、相当額の支出をしたことないしは支出を予定していることが認められるが、そのうち右金額が被告らの負担すべき金額である。

小計 五八五四万円

5  過失相殺

(一)  被告加藤は、亡伸吾は、指定最高速度をはるかに上回る速度で走行する加害車Ⅱに同乗し、被告菅原に対し、それを制止することもしなかつたので、被告加藤との間において、いわゆる被害者側の過失とし、被告加藤の損害賠償額を決定するにおいて斟酌されなければならないと主張するが、亡伸吾に過失があつたと認めるに足りず、また、被害者側の過失として過失相殺するためには、被害者本人と身分上、生活関係上一体をなすと見られるような関係にある者の過失が必要とされるが(最判昭和五一年三月二五日民集三〇巻二号一六〇頁)本件においては、そのような状況にはないから、被告加藤の主張は失当である。

(二)  被告加藤は、亡伸吾は、本件事故発生当時ヘルメツトを着用していたが、顎紐を装着していなかつた旨主張するが、亡伸吾がヘルメツトの顎紐を装着していか否かは分明ではなく、顎紐を装着していなかつたと認めるに足りず、仮に、顎紐を装着していなかつたとしても、亡伸吾が死を免れたといえるかは疑問であり、亡伸吾の過失とまでいうことはできず、被告加藤の主張は失当である。

6  好意同乗による減額

(一)  乙四号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

被告菅原と亡伸吾は、本件事故当時神奈川工業高等学校の同級生であつた。

本件事故当日、被告菅原は、亡伸吾と石川町方面に遊びに行くため、加害車Ⅱを運転し、上飯田の自宅から磯子の亡伸吾宅へ向かい、亡伸吾宅から、亡伸吾を加害車Ⅱの後部座席に同乗させたうえ、被告菅原が石川町方面への道順を知らなかつたため、亡伸吾が後部座席から道順などを知らせることとして、石川町方面に進行中に本件事故が発生した。

以上の事実が認められる。

(二)  右事実に徴すると、亡伸吾は、すすんで、加害車Ⅱの運行供用者であるとか、運転補助者であるとかまで、いうことはできないが、すすんで被告菅原の加害車Ⅱの後部座席に乗車していたものであり、被告菅原の走行態様が安全とはいえないにもかかわらず同乗を継続したこと、走行及び同乗目的その他諸般の事情を考慮すると、被告菅原に対する関係で、公平の見地から損害賠償額全体につき、二〇パーセントの減額をするのが相当である。

小計(被告菅原に対し) 四六八三万二〇〇〇円

7  損害の填補

原告が自賠責保険から二九五四万三四〇〇円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがないから、原告の損害額から控除することとする。

なお、被告加藤は、右の他、治療費として五八万五四一八円支払つた旨主張するが、弁論の全趣旨によれば、右は、原告の本訴において請求していない費目である治療費として充当されたものであり、被告加藤の関係で過失相殺のない本件においては、被告加藤の抗弁としては理由がない。

小計(被告菅原に対し) 一七二八万八六〇〇円

(被告加藤に対し) 二八九九万六六〇〇円

8  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らが任意に右損害の支払いをしないので、その賠償請求をするため、原告代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告らに損害賠償を求めうる額は、被告菅原に対しては、一七二万円、被告加藤に対しては、二八九万円とするのが相当である。

合計(被告菅原に対し) 一九〇〇万八六〇〇円

(被告加藤に対し) 三一八八万六六〇〇円

四  以上のとおり、被告菅原に対する原告の本訴請求は、損害金一九〇〇万八六〇〇円及びこれに対する本件事故の日の後である平成元年一月一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、被告加藤に対する原告の本訴請求は、損害金三一八八万六六〇〇円及びこれに対する本件事故の日の後である平成元年一月一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

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